私の知り合いに同じぐらいの子供を持つシングルマザーさんがいました。
彼女は男好きのする可愛い顔をしていたのでいつも彼氏がいたのですが、その彼氏から粗末に扱われ、別れを繰り返していました。
なんで私ばっかり不幸な目にあうのよー!と言いながらも、何を教えても「勉強大嫌い、難しいこと大嫌い」という人で、ややこしい手続きやきまりなどからできる限り逃げていました。
彼女には2人の男の子がいました。上の子はかなりの肥満児で、やはり勉強大嫌いの明るさが取り柄の元気な子。でも下の子は精悍な顔つきをしたとても頭の良い子で、いつも何かを吸収したがっていました。
彼はよく私が料理をしている台所にやってきて、自分が抱えている疑問を投げかけてくるので、それに真剣に答えながらも、なんて面白い子なんだろうと驚いたものです。
その子がある日、申し訳なさそうな顔をして頼み事をしてきました。
「俺のお母さんと電話で話ししてください」って。
何を話せばいいんだろうと思いましたが、彼の目を見ていたらなんとなくそれがわかり、そこから私は彼女と話をするようになったんです。
「ごめんねー、わけわかんないよね、あの子があなたと話せ話せってうるさくてさー。
なんかお料理とか教えてもらってとかいうのよー。うらやましかったのかねー。」
彼女はあっけらかんと話します。
そんなやり取りが何回か続いた頃、休日の朝に彼女から電話がありました。
「もうさ、あの子はあなたにあげるよ。あの子もあなたの方がいいんだよー。難しいことばっかり言うからもう疲れちゃってさー。
ああいうめんどくさいのが一番嫌い!!!」
私は初めて彼女に憎しみを感じました。
あの子がどれだけ寂しい思いをしているか。
母親のことをどんなに愛して心配しているか。この女はわかろうと努力すらしない。
あんたなんか母親になる資格ない。
私は泣きながら言いました。
「あの子の気持ちを考えることがそんなに疲れることなのか!あんたはなんのために生まれてきたんだ!ばか!」
後にも先にも、他人にこんな言葉を投げかけたのはこれ一度きりです。
「考えることが苦手なのはわかる。でもそれは自分の武器を手放すことなんだよ。どんなに嫌いでも面倒でも、逃げたらもっと辛いことが襲ってくるんだよ。あの子はそれがわかるから、あなたに何とかして頭を使って欲しいんだよ!あの子の必死の愛なんだよ!」
突然キレた私の気迫に、さすがの彼女もおどろき
「じゃ、じゃあさ、どうすりゃいいのよー」
と言いました。
なんで私がそこまでレクチャーしなきゃなんないんだと思いつつ、あの子の顔を思い出すと放っておくことができず、私は彼女にあれこれ手ほどきを始めたわけです。
私だって考えること大嫌いだし面倒だし難しいことはうんざりするほど苦手です。
でも、そこから逃げてると、間違いなく勉強できる系の人間たちのカモにされます。
だから歯を食いしばって立ち向かってます。
自分1人ならまだしも、子供がそんな奴らのカモにされるなんて耐えられないからです。
彼女は、少しづつ変わりました。
ある日急に、なぜこんなバカな男と付き合ってるんだろうと思ったそうです。
そう、頭を使い始めると、周りの人間の質が見えてくるんです。
そしてそのうち彼女は、今まで何も考えず借りていた家を出て母子寮に入り、地道な仕事につき始めました。料理も作るようになったそうです。
母子家庭の武器は、頭を使うこと。これに尽きると私は思っています。
○○太くん、元気ですか?
おばちゃんは、あなたともう一度会いたいといつも思ってます。