昔東京に大雪が降った日、母親が私と弟を連れて、電車に乗りました。
私達にはそれぞれお菓子を買ってくれて、弟がはしゃぐので最初はとても嬉しかったけど、窓の外を見ている母が暗い顔をしていることに気づき私は急に不安になりました。
お母さん、楽しいね
お母さん、お菓子嬉しいよ
お母さん?お母さん?
子供は不安になるとすぐ解消したくなるものです。
私は母の笑顔が見たくて母に話しかけ続けました。
母は
そう、よかったね
と一瞬笑顔になるものの、すぐにまた暗い顔になります。
私の心臓はバクバク言い出し、だんだん気持ち悪くなってきました。
お母さん、気持ち悪い
母は、またかというようなうんざりした顔をしました。
その瞬間、私は母が子育てにうんざりしていることに気づきました。
私も弟も子供の頃は病弱で、病院通いが絶えず、それでは母疲れ父は苛立っていたのでした。
雪国から来た母は、どうしても電車の窓から雪が見たかったのでしょう。
本当は私達なんか置いて行きたかったに違いありません。
その私かまた気持ち悪いと言った…
母の疲れはピークに達したようで、目から涙が溢れて来ました。
当時の私はまだ幼稚園に行くか行かなかったかだと思います。
それでもその時の光景は今でも鮮明に覚えているのです。
私はその時、自分を消してしまいたいと思いました。
大好きな母を困らせる自分を。
そして、絶対にその気持ちを悟られてはいけないと思いました。
これ以上母を困らせるもんかと思ったからです。
お母さん、大丈夫だった。間違いだった。
私はそういうと弟と遊びました。
おそらく小さな体で精一杯元気を装い、何とかして母を笑わせたいと必死になっていたんだと思います。
小さな子供は、ここまで複雑な思いを抱えることができるのです。
私はそれが忘れられなかったので、子供を虐待せずに済みました。
これは特別な事例ではないのです。
みんな忘れているだけで、子供は親が思うよりずーっと敏感で不安な気持ちを抱えています。